京都地方裁判所 昭和43年(わ)983号・昭43年(わ)1226号 判決
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〔判決理由〕第八、同月一八日午前三時三〇分ごろ、金品強取の目的で、タオルで覆面のうえ菜切庖丁一丁を携えて同市宇治一番一五六番地本町アパート一階三号室芦田通男方奥六畳の間裏窓より同室内に侵入し、もつて同時に強盗の予備をなしたが、予期に反し直ちに同室に寝ていた同人の妻芦田幹子(当時二七年)に気付かれたので、一瞬たじろぐとともに金品強取の目的は断念していち速くその場より逃走すべく、右手で同女に対して前記庖丁を構えながら左手では同女の左腕をつかんだりしたため、被告人の左手を振払おうとした同女の左腕が前記庖丁に触れ、よつて同女に対して加療約一〇間を要する左前腕部切創、左上腕挫傷の傷害を負わせ
たものである。<中略>
(芦田幹子に対する住居侵入罪、強盗致傷罪の訴因に対し、住居侵入罪、強盗予備罪、傷害罪を認めた理由)
検察官は、判示第八の住居侵入後における被告人の所為は金品強取の手段として行われたものであるからそれによつて芦田幹子に対して傷害を負わせた以上、右は強盗致傷罪を構成する旨主張している。
よつてこの点につき判断する。
強盗致傷罪が成立するためには、
① 致傷の原因となつた当該暴行行為が、それ自体財物強取の手段として強盗の実行行為と認められること。
② 当該暴行行為の行われた時点において、すでに他に強盗の実行行為と認められるような犯人の行為が存在していること。
③ 当該暴行行為の行われた時点までにおいて犯人がすでに窃盗の実行行為に着手しており、逮捕または財物の取還をまぬがれるためもしくは罪跡隠滅のために当該暴行行為に及んだと認められること。
のいずれか一つの場合に該当することが必要である。
これを本件についてみるに、被告人が被害者芦田通男方居室に侵入したのは金品強取の目的のためであつたことは前記認定のとおりではあるが、前掲各証拠によると、被告人が右居室に侵入してから同所を立ち去るまでの時間はわずか一分前後でしかなく、しかも、その間、被告人は芦田幹子に対しても何ら言葉を発しておらず、その他同室をあちこち移動したわけでもなく、金品を物色するような言動も全くなかつたと認められるのであるから、そのような当時の状況から判断するときは、右侵入後において芦田幹子に対して庖丁を構えながら同女の左腕をつかんだりした被告人の所為は、金品強取の手段としてなされたものとは認められず、むしろ判示の如く同女に騒がれないままその場より安全に逃走するための手段としてなされた所為であつたと認定するのが相当であり、これを以て強盗の実行行為と目することは到底できないというべく、しかも、このほか被告人が右侵入後において強盗もしくは窃盗の実行行為と認められるような所為に出でたと認定されるものも何ら存しない。
そうであるとすれば、被告人の所為につき強盗致傷罪は成立しないといわなければならない。
ただ、前記認定の如く、被告人の右住居侵入行為は同時に強盗予備罪を構成するものであり、また右侵入後における被告人の所為は刑法二〇八条にいうところの暴行の実行行為には該当すると認められ、しかも被害者芦田幹子の受傷は右暴行行為に基づくものと認定されるから、結局、被告人の所為につき住居侵入罪、強盗予備罪、ならびに傷害罪の成立は認めねばならないところ、それは検察官主張の訴因のうちに含まれていると解されるので、その範囲内において有罪の認定をした次第である。(森山淳哉 西川賢二 栗原宏武)